免疫学の最前線 -今も新型コロナウィルスとの戦いは続いている-
世界で猛威を振るった新型コロナウィルス感染症。WHOの2023年の報告によれば、2019年12月に中国の武漢で初めて報告されてからこれまで、全世界で7億7000万人以上が感染し、695万人以上の死亡が確認されています。この感染症の原因となるのが、SARSコロナウィルス2です。このウィルスに対するワクチンの開発が驚異的な速さで進み、米英では2020年末ワクチン接種が開始。日本でも2021年2月からワクチン接種が始まったことで、新規感染者数は落ち着きを見せています。
そこで最近、感染防御の真髄である免疫に関心がもたれるようになりました。それでは免疫とは何か?もともとは疫病、つまり感染症から免れることを意味しています。感染症とは細菌やウィルスなどの病原体によって起こる病気で、抗生物質とワクチンが開発される前は、人類の生存にとって最も大きな脅威でした。細菌やウィルスは私たちの身辺に常在し、体の中にも侵入して来ます。免疫はそれらの病原体と私たちの体の中でいつも戦っているのです。この力を利用したのがワクチンです。
嚆矢は18世紀、英国の外科医エドワード・ジェンナーが、天然痘の予防法種痘を開発しました。天然痘はウィルスが引き起こす感染症で、感染力が強く死に至る病として紀元前から恐れられていました。一方、天然痘に似た症状が出る牛痘という牛の病気があります。牛痘はヒトにも感染しますが症状は天然痘より軽く済みます。種痘は、牛痘に感染した人にできた水疱から液体を絞り出して接種するというもので、接種した人は天然痘にかからなくなります。種痘によって牛痘ウィルスに対して得られた免疫が似ている天然痘ウィルスに対する防御にも働くためです。
次に身近な人物の偉大なる業績を紹介します。毎日ご覧になっている新千円札の顔、北里柴三郎による抗体発見です。当初、破傷風の原因となる破傷風菌の純粋培養に成功し、細菌学者として頭角を現しました。破傷風菌の研究から細菌が産生する毒素に着目しました。毒素を含んでる破傷風菌の培養液を少しづつ実験動物に注射していくという実験を行いました。そしてその実験動物は致死量の毒素を与えても死なないことを見いだしました。毒素を投与しても死ななくなった動物の血清中に毒素を無毒化する物質があると考えこれを抗毒素と名付けました。それが今でいう抗体です。抗原は毒素です。
現在では弱毒化した病原体や、不活化した病原体あるいは精製し抗原タンパク質がワクチンとして使われていました。新型コロナウィルスに対しては、mRNAという全く新しいタイプのものです。これは抗原タンパク質をコードするmRNAを細胞内に送り込めば、その情報を元に抗原タンパク質が作られて免疫が誘導されるという理論にもとづいております。
mRNAワクチンの生みの親として、女性化学者カリコ博士と共同研究者のワイスマン博士は2023年、ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
医療法人十全会 おおうらクリニック 理事長 大浦孝