リウマチの治療法

新しいリウマチの治療 -生物学的製剤の開発-

I.これまでの治療

1)プレドニゾロン(PSL)とリウマトレックス(MTX)

その昔、リウマチの有効な治療薬はなく、別府の温泉療養へ出かけるのが関のやまでした。1950年、ヘンチが副腎皮質ホルモン剤(プレドニゾロン:PSL)を身動きのとれないリウマチ患者に使用したところ、ダンスができるようになったとニューヨーク・タイムズは報じたそうです。この発見により、ヘンチはノーベル賞を受賞しました。
以来60年、現在でも第一特効薬です。しかしながら、多量長期服用で副作用が出現することがあります。肥満、糖尿病、胃潰瘍、骨粗鬆症、白内障、不眠等です。従って、使用期間、使用量は慎重に吟味されます。
次に、一般名メトトレキサート:MTX(商品名 リウマトレックス)も有効な抗リウマチ薬で、この数年間広く使用されるようになりました。MTXは核酸合成を阻止し、細胞増殖を抑制する薬理作用があるため、当初抗がん剤として使用されておりました。これを応用して海外で関節リウマチへの効果が報告され、国内でも99年にリウマチ治療用のカプセル剤として承認されました。治療効果の高さから、世界各国で標準薬とされております。
現在ではこの二剤が抗リウマチ薬の双璧で、リウマチの進行、関節変形を阻止し、疼痛の緩和も可能となりました。寝たきりだった病人は少なくなり、疼痛から解放され、普通の日常生活を送れるようになったのです。その福音には計り知れないものがあります。
ところでMTXの副作用についてですが、肝,腎機能の低下した人や透析患者には禁忌です。肝臓の解毒作用が低下したり、尿に薬が排泄されないため中毒量となり、貧血や肺炎をおこすことがあります。すなわち、ハンディキャップがある方にとっては使用不可能な薬剤です。また効能にも個人差があります。そのためにも厳重な危機管理体制を取っております。定期的な血液検査(貧血、肝、腎)、胸部レントゲン検査は必須事項です。その外にも服用量については細心の注意を払わなければなりません。いわば、有効量と中毒量が紙一重なのです。
従って服用方法は週間低用量間欠投与法となっております。この条件を順守すれば、副作用は未然に発見され、重大にはなりません。

2)多種多様の治療

現在では早期発見、早期治療、継続治療が原則で、治療法は格段に進歩しております。薬物療法、手術療法、リハビリテーション、血漿交換療法と個々の患者さんに最も適切な、時宣を得た治療法が選択できる時代となりました。薬物療法では、消炎鎮痛剤を基本として、副腎皮質ホルモン剤や免疫抑制剤の併用療法で充分な治療効果が得られます。疼痛は緩和し、関節の動きもスムーズとなり、症状の進行・関節の変形は阻止されます。もっとも、これらの治療は諸刃の剣でもあり、副作用の再現には細心の注意を要します。関節炎のみならず、五臓六腑いずれかの臓器が侵されたり、皮膚潰瘍を形成したりしてくると、悪性関節リウマチとしてより強力な治療法が必要とされます。各治療法の適用、その時期と期間との組み合わせは、患者さんの状態に応じて慎重に吟味されます。とはいっても、これらの従来の治療法はいわば総花的・対症的治療法で、必ずしも的を得た治療法とはいえないところもあるのはいなめません。
I 抗炎症剤
1. 非ステロイド抗炎症剤(NSAID)
アスピリン、ボルタレン、インドメタシン、ロキソニン、フェルデン、インフリー
2. ステロイド剤(副腎皮質ホルモン)
プレドニン、リンデロンほか
II 抗リウマチ剤(寛解導入剤・DMARD)
1. 免疫調節剤
(1) 金製剤 {筋注用・・・シオゾール、経口用・・・リドーラ}
(2) メタルカプターゼ(ペニシラミン)
(3) リマチル(ブシラミン)
(4) サラゾピリン
(5) カルフェニール
2. 免疫抑制剤
(1) メソトレキセート
(2) ブレディニン
(3) エンドキサン
(4) イムラン

この10年、より的を得た治療法が開発されました。リウマチの原因は不明ですが、その病態、特に進行過程である炎症・免疫反応が分子のレベルで解明され、そこで主役、脇役、善玉、悪玉がリストアップされました。病態の悪循環を断つため、最も肝心な悪玉に的を定めてミサイルを発射する治療法が開発されました。

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II.これからの治療

1)抗TNFα抗体のレミケードと抗TNF療法のエンブレル

(生物学的製剤)
新しい抗リウマチ薬・治療法
登場年月 一般名(商品名)
2003年 7月 インフリキシマブ(レミケード)

生物学的製剤
2003年 9月 レフルノミド(アラバ)

免疫抑制薬
2004年 4月 白血球除去療法:LCAP(セルソーバ)

血液浄化器
2005年 3月 エタネルセプト(エンブレル)

生物学的製剤
2005年 4月 タクロリムス(プログラフ)

免疫抑制薬
Phase Ⅲ 終了 トシリズマブ(アクテムラ)

生物学的製剤
Phase Ⅱ アダリムマブ(ヒューミラ)

生物学的製剤
Phase Ⅰ アバタセプト(オレンシア)

生物学的製剤
 これまでの薬は、ほとんどが化学的に合成された薬でしたが、近年、生物が産生した蛋白質を利用した薬が作られるようになりました。これが生物学的製剤と呼ばれるものです。最新のバイオテクノロジー技術を駆使して作られるので、バイオ医薬品とも呼ばれています。炎症を引き起こす重要な分子を標的とし、それを徹底的に抑え込むように設計された薬です。化学的に合成された薬は、肝臓か腎臓で代謝されるため、このどちらかの臓器に負担がかかりますが、生物学的製剤は蛋白質であり、従来みられるような副作用は少ないとされています。
 生物学的製剤は、構造上、大きく二つに分けることができます。一つは抗体製剤、もう一つは受容体をまねた製剤です。
 抗体製剤の抗体は、標的とする分子とだけ強く反応するモノクローナル抗体と呼ばれるものです。以前は単一な(モノクローナル)抗体だけを大量に作り出すのは技術的に困難だったのですが、分子生物学的手法が進展したことで、そうした単一の抗体群(モノクローナル抗体)を作り出すことが可能になりました。モノクローナル抗体なら単一物質とのみ反応するので、標的分子にのみ反応させる薬として使えるわけです。
 関節リウマチの薬として、最初はヒトの蛋白で作ることができず、マウスの蛋白からモノクローナル抗体が作られましたが、現在、改良が進み、マウス由来の蛋白を少なくし、その分ヒト蛋白の割合を増やした薬が実際の治療に使われていて、ヒト蛋白の割合から、ヒト75%のキメラ抗体(異なる生物種を複数融合させたものをキメラという)、90%のヒト化抗体、100%の完全ヒト抗体に分けることができます。そのいずれも標的分子とだけ強く反応するので、他の分子の働きには影響を及ぼしません。
 一方、受容体をまねた薬は、標的分子の受容体を設計図である遺伝子の配列から作り出し、ヒトの抗体の一部分とつなぎ合わせて血液中で安定化させたものです。この薬を自分の受容体と勘違いして標的分子が結びつくことで、その働きが抑えられるわけです。
 この生物学的製剤は、関節リウマチの治療に画期的な進歩をもたらしました。アメリカのリウマチ専門医の一人でテキサス大学教授であるフライシュマン博士は、「従来の薬ではどんなに工夫しても、病気がほぼ治ったに等しい寛解と呼ばれる状態にもっていける人は40%前後であったが、生物学的製剤を90%以上の人に積極的に使うようになった結果、それが75%にまでなった」と感慨深げに話していました。これは、彼一人に留まらず、米国で生物学的製剤を積極的に使う多くの医師の共通した感想です。最近では、関節リウマチの関節破壊が抑制されるだけでなく、人によっては壊れた関節の一部が元に戻った、という報告があるほど、これまででは考えられなかった治療成績が次々と発表されています。
 生物学的製剤の標的としては、炎症と関連するサイトカインが第一目標となりました。今のところ、アメリカで承認されている関節リウマチに対する生物学的製剤の四つは、すべて炎症性サイトカインを標的としたものです。
 さて関節リウマチの関節では、サイトカインの一種であるTNFα(ティー・エヌ・エフ・アルファ)という物質が大量に作られています。TNFαはもともと人の身体にあるものですが、関節リウマチでは異常に増加しています。関節リウマチが起こるメカニズムにはさまざまな要因が関係していますが、なかでもTNFαは重要な物質で、関節リウマチの関節で次のような働き(“悪さ”)をしています。
TNFαが原因となっている関節リウマチの症状
 このようなTNFαの働きを止めることは、関節リウマチの症状や進行をくい止めることにつながります。レミケードはTNFαにくっついて、その働きをおさえます。また、TNFαを作っている細胞そのものも壊します。レミケードは「抗TNFα抗体」とも呼ばれており、この治療を「抗TNFα抗体療法」といいます。
関節リウマチ患者さんの関節内にはTNFαが大量にある
 これは米国で開発された薬剤で、症状をやわらげるとともに、関節破壊をくい止める効果に優れることから、海外では高い評価を得ており、すでに世界81カ国で発売され、約50万人の患者様に使用されています(2004年2月現在)。
 従来の薬(消炎鎮痛薬や抗リウマチ薬)で十分な効果が得られなかった場合に、この治療を始めます。レミケードは病院で点滴します。1回の点滴は2時間以上かけて行います。初めての点滴の後は、その2週間後、6週間後に投与し、以後は8週間ごとになります。レミケードによる治療を行っている期間はメトトレキサートも服用します。
 重要と思われる副作用としてレミケードはTNFαの働きをおさえることで炎症をしずめるだけでなく、体の抵抗力を落としてしまうことがあるため、感染症が起こりやすくなる可能性があります。
 次にエンブレルは、増えすぎてしまったTNFαに結合して、その作用をブロックする抗TNFα療法の薬です。炎症や関節破壊進行の原因であるTNFαを直接ブロックするので、抗リウマチ薬(DMARD)や非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)で十分な効果があがらない患者さんに対しても効果が期待できます。
 投与のしかたとしては、10~25mgを1日1回、週に2回、皮下注射する薬です。なお、ご希望される患者さんで、一定の条件をみたす方では自己注射も可能です。
 重い副作用として、抗TNFα療法を受けると、免疫のはたらきが低下するため、病原体に対する抵抗力が低下して、感染症にかかりやすくなることがあります。
 又いずれも高価な薬ですが、例えばエンブレルによる治療にかかる患者さんの負担(エンブレルのみの薬剤費で計算した場合)は、3割負担の場合、1ヵ月4万円前後となります。ただし、1~2級の身体障害者手帳をお持ちの方は、全額あるいは一部が公費負担になります。

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2)関節リウマチに対する白血球除去療法―LCAP療法―

 関節リウマチとは何らかの理由で全身の関節に炎症が起こり、痛みや腫れ、変形を引き起こす病気です。関節の炎症の原因には炎症を引き起こす物質(サイトカイン)を放出する活性化した白血球が関与しています。炎症を引き起こす活性化した白血球が関節内に入り込むと、関節内で炎症が起こります。炎症により骨膜が厚くなり、関節液が増えるために関節が腫れてきます。活性化した白血球は関節内にとどまり炎症を長引かせるため、やがては関節内の軟骨や骨の破壊を引き起こします。
 白血球除去療法(LCAP療法)とは血液中の活性化した白血球を取り除き、炎症をすみやかに鎮める治療法です。つまり、活性化した白血球が関節内にとどまり炎症を長引かせたり、軟骨や骨の破壊をはじめる前に除去してしまうものです。即ち血液を一度体の外に出し、白血球を除去するフィルターを用いて血液中から関節の炎症を引き起こす活性化した白血球を取り除き、浄化された血液を体に戻します。
 LCAP療法は、現在服用しているお薬で十分な効果を得られない関節リウマチの患者さんが対象です。LCAP療法は現在服用しているお薬を服用したまま行います。患者さんの状態にもよりますが、LCAP療法を行った後、約1週間で腫れや痛みが改善します。
 実際の治療方法として、一方の肘または大腿の静脈から血液を一度の外に取り出し、白血球除去フィルターで活性化した白血球を除去し浄化した血液を反対側の同じ静脈へ戻します。1回の治療時間は約1時間です。これを週1回のペースで5回連続して行います。
 以上、現在進行中の治療法について述べましたが、現象が分子レベルで解明され、いずれもその分子を標的とする、必要最小限で選択的な治療法といえます。この10年間はこの治療法が主流となると思われますが、次に考えられる治療法はヒトの遺伝子操作による治療が可能となることでしょう。自己抗体の産生機序が解明され、それを制御する事が可能となるでしょう。つまり、個別の遺伝子の差異が識別され、それに呼応した、治療法が開発されるでしょうし、もっと根元的な遺伝子異常が解明され、遺伝子組み換えによる十全的な治療法が期待されます。と同時にリウマチのみならず、癌、糖尿病、老化現象等も解明され、先駆的な治療法が開発される時代に突入する前の過渡期にあるものと認識しております。
 ある人がふと想い着いたことが、新しい理論として考案されると、それは仮説ですが、その時代の新しい技術でそれを実験し、実証します。しかる後に新薬として開発され、製造、発売されることとなります。理論と技術が表裏一体となり日々の診療を進歩させております。
やわらかき冬の光が身にしみて生きよ生きよとわれを温む
(柳澤桂子歌集より)

参考図書:竹内 勤「膠原病・リウマチは治る」文春新書,平成17年9月20日発行

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